糖尿病の治療ガイド

-2型糖尿病向けの新しい治療薬「インクレチン関連薬」-

2型糖尿病向けの新しい治療薬「インクレチン関連薬」

インスリンの分泌を促す「インクレチン関連薬」

糖尿病の新しい治療薬が、相次ぎ登場しました。これまでの薬ですと低血糖や体重増を招くこともありましたが、多くの患者でこうした弊害を回避でき、血糖値の改善効果が出始めています。一方で既存薬との併用や切り替えに問題がある例も報告され、新たな課題となっています。

2009年12月以降、糖尿病の9割以上を占める2型糖尿病向けに相次ぎ登場したのは「インクレチン関連薬」です。インクレチンはホルモンの一種で、食事をすると腸管から出て膵臓(すいぞう)に働きかけ、血糖値を下げるインスリンの分泌を促すうえに、グルカゴンと呼ぶ血糖値を上げるホルモンが出るのも抑えてくれます。

インクレチンの特長は、血糖値が高い時だけ働くことです。そして2型糖尿病の人はこのインクレチンが出にくいことがわかっていました。そこで開発されたのが、インクレチンの一種「GLP―1」に似た人工ホルモンの注射薬「GLP―1受容体作動薬」と、「GLP―1」を壊してしまう酵素の働きを抑える飲み薬「DPP―4阻害薬」です。国内では注射薬が1種類と飲み薬3種類(4製品)が販売されています。


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「インクレチン関連薬」による糖尿病治療

都内在住の伍々早苗さん(58)は、8年ほど前から糖尿病の治療をしています。膵臓のβ細胞に直接働きかけてインスリンを出す血糖降下薬で治療してきましたが、1~2カ月間の血糖値平均値(HbA1c)は正常値の2倍以上の12%で、血糖コントロールができませんでした。

そこで伍々さんにGLP―1受容体作動薬の注射薬「ビクトーザ(一般名リラグルチド)」を使用してみたところ、2週間後に血糖値平均値(HbA1c)が10.7%、4カ月後には6.2%に下がりました。伍々さんは「注射には抵抗もありましたが、痛みは少なかったです。最初は悪かったおなかの調子も治まり、怖いぐらいに効いています」と話しています。体重も1キログラム減りました。

肥満体形で25年前から糖代謝に異常があり、放っておくと糖尿病に移行すると医師からいわれていた東京都練馬区の本合雅史さん(61、仮名)も、飲み薬のDPP―4阻害薬「グラクティブ(一般名はシタグリプチン)」を毎朝1回服用しました。半年でHbA1cは6.4%から正常値に近い同5.9%に下がりました。体重増加も、ありませんでした。

2人の治療にあたった菅原医院(東京・練馬)の菅原正弘院長は「インクレチン関連薬だと、低血糖も体重増加もみられず、患者さんの満足度も高い」と評価しています。

「インクレチン関連薬」は低血糖を回避

低血糖の症状は、血糖値が正常値の下限とされる血液1デシリットル中70ミリグラム未満になると、起きことが多いいです。目まいや頭痛、吐き気に始まり、ひどくなると失神します。こうした 低血糖症状を経験すると薬を飲むのが怖くなり、服薬をさぼり血糖コントロールを悪化させる一因でもありました。

従来の治療薬は血糖値を確実に下げる一方、「低血糖により耐え難い空腹感が生じ、さらに食べて太るという課題があります」と東京大学の門脇孝教授は話します。太れば脂肪が出す物質の影響で、インスリンが効きにくくなります。

「新薬は従来薬と比べ、血糖降下作用はそれほど強いわけではありませんが、併用でスルホニル尿素(SU)薬の量を減らせるのが利点になります」。こう話すのは多摩センタークリニックみらい(東京都多摩市)の宮川高一院長です。

スルホニル尿素薬はインスリンの分泌を促進させる薬で、国内で最も多く使われている治療薬ですが、低血糖を起こしやすかったり、長期に大容量で飲み続けたりすると、膵臓のβ細胞が疲弊する原因にもなるといわれています。

治療の初期に新薬との併用などでスルホニル尿素薬の量を減らせば「高齢になってどうしても血糖値 が下がらなくなった段階でスルホニル尿素薬を増量していける」と宮川院長は話します。

「インクレチン関連薬」の副作用

もちろん、「インクレチン関連薬」にも副作用はあります。60代の男性2人が、従来のインスリン製剤からGLP―1受容体作動薬の注射薬に切り替えたところ、高血糖を起こして血液中に代謝産物が異常に増え、死亡しました。DPP―4阻害薬をスルホニル尿素薬と併用する65歳以上の高齢者を中心に、重症の低血糖を起こす事例も続きました。

死亡例が出たことに専門医らは「新薬の使用は患者自身のインスリンが一定量出ていなければならない」と強調します。発症時からインスリンが不足する1型糖尿病や長期に2型糖尿病を患い、既にインスリンが枯渇している人には使えません。

東京女子医科大学の岩本安彦教授は「新薬による治療の前に、インスリン量が不足していないかをきちんと検査して確かめなければならない」と指摘します。

また、スルホニル尿素薬との併用者に起こった極端な低血糖は「科学的には分かっていません。ただ、スルホニル尿素薬の効き目を高めた可能性もあります」と岩本教授は話します。岩本教授らは高齢者や腎機能が低下している人には、スルホニル尿素薬を減量するよう推奨しています。


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関連医療機関

菅原医院(東京・練馬)

多摩センタークリニックみらい(東京都多摩市)

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